この作品のおもしろさは闇事情を持つ諸藩に幕府が影(隠密忍者)を潜入させて難癖をつけ取り潰そうとする企てを影狩りと呼ばれる浪人との攻防だ。
そこには、侍というものの生き方、考え方、そして個人的な諸事情との葛藤、矛盾、挫折、苦悩と言った人間らしさが深く重く読み手である私たち伝わってくるところだろう。
影狩りはなぜ存在するのか? 幕府の狙いはなんなのか?
さいとうたかを先生の作品の中でも秀悦でヒューマンドラマが好きなあなたには必携の作品です。
目次
影狩りってどんな漫画?
徳川幕府は長きにわたり繁栄し続けたが経済は次第に困窮していった。幕府は財政を立て直すためにお庭番(隠密いわゆる“影”)をひそかに送り込み難癖をつけ領地を没収しようとしたのであった。
そんな影の、いや幕府の策略に対し諸藩は“影狩り”と呼ばれる十兵衛、月光、日光の三人衆を高額で雇い入れ、幕府の陰謀にに対抗しようとしたのである。
影狩り三人衆はそんな影の手から諸藩を守り切れるのだろうか?
また、影達は、いや公儀お庭番は次はどんな手で取り潰しを狙ってくるのだろうか…
影狩りのおもしろさ
影と影狩りの攻防
影たちは、百姓の一揆を先導して大名の管理力の無さを口実にしたり、上様からの褒美を奪っておきながら失くしたと難癖をつけたり、藩の隠し財産を見つけ出そうとしたりとあの手この手で取り潰しを画策してくる。
影狩りたちはそんな影たちの陰謀をどうやって見破るのか。
実は陰謀そのものは影狩りたちも比較的容易に見つけ出すことはできる。
それをいかに食い止め、そして江戸へ報告にいく影を始末するところにこの作品のスピード感が出るのだ。
ハラハラ、わくわくしながら没頭してしまうのだ。
諸藩の闇事情
影に狙われたからと言って諸藩が被害者だとばかりは限らない。
実際に幕府に内密で財産を隠したり、領主の気がふれて座敷牢に閉じ込めたりと、取り潰しになっても仕方ない事実を隠匿している諸藩も少なくない。
そこに影の気配を感じ影狩りたちに諸藩の闇事情を表に出さないため影を狩って欲しいという依頼もあるのだ。
こういうケースでは大抵の藩は影狩りにも事情を隠し、まことしやかに被害者面で影狩りたちと接する。
諸藩の僅かにおかしい行動を見逃さすに影狩りたちが真相を暴いていく。
いったいどんな闇事情が隠されているのだろうか。
侍というものの生き方
冒頭、この時代は幕府が困窮し財政立て直しのため諸藩取り潰しを画策していると述べた。
実際取り潰しにあった諸藩の多くの侍は浪人となり野に下り貧しい暮らしをしている。
戦が起こって手柄を立てられる訳でもなく、士官の話がある訳でもない。
しかし、いくら貧しい暮らしをしても武士は武士。
信念を持った生き方を貫き通そうとする気概が描かれている。
これは浪人だけではなく公儀お庭番や幕府の要職連中にもその生き様として同じように描写されている。
侍とはかくもありき気高く泥臭く不器用な人間なのである。
それ故に十兵衛、月光、日光といった影狩りが誕生したのだ。
彼らが影狩りとして生きていく道をなぜ選んだのか堪能してほしい。
「影狩り存在の恐怖」それこそが幕府の狙いなのか
実は影狩りという存在自体が幕府の思惑である。
なぜ?どうして?敵であるはずの影狩りが実は幕府にとって必要な存在とは一体どういうことなのだろう?
このエピソードは「十兵衛は影だ」を読んでもらいたい。
しかし、それだけを読んだとしても話がつながらない。
順に読んでいってもらいたい。
果たして本当に影狩りは幕府の手先なのだろうか?
さいとうたかを先生の作品の中でも秀悦
影狩りという作品はさいとうたかを先生の代表作のひとつと言っても過言でないはないほど秀悦な作品である。
さいとうたかを先生と言えばゴルゴ13や鬼平犯科帳などは誰もが知る超有名作品を創出した偉大な漫画家であるが、これらの作品には特長がある。
ゴルゴ13と言えばデューク東郷の神業スナイプをおもいだされるだろうが、この作品をおもしろくしているのはスナイプそのものではなく、不可能を可能にするその緻密な暗殺計画こそがおもしろいのだ。
当然みなさんもご存じであろう。
鬼平犯科帳しかりである。
勧善懲悪(かんぜんちょうあく)は確かにおもしろいが、鬼と呼ばれる男が時折見せる非常に人間味あふれる一面を垣間見るところに心を温めるおもしろさがあるのだ。
そして、この影狩りという作品のおもしろさは表面的には影との攻防である。
様々な手段を用いてお家取り潰しを画策する影とそれも未然に、時には事後に防ぐスリルがドキドキ、ハラハラ感が私たちを楽しませてくれる。
そして彼らと関係ある人たちとの人間模様を織り交ぜながら、なぜ十兵衛たちは影狩りになったのか?
影狩りとは何なのか?
幕府に楯突くことにどんな意味があるのか?
これらを同時進行させることで、大変に読み応えのある内容となっている。
影狩りは何度でも読みたくなる…そういう深みのある作品だ。このように何度も読み返したくなる作品はぜひ1セットはもっていたいものである。